
先日、リアル友人とワタミの労働環境の話になり、あれはまずいよね~という話をしていたのですが、その時に友人が言った「経営やばいからああいうことしてんじゃない?」という一言が気になりました。そして調べてみたところ、ワタミ面白そうじゃんということで、この記事が出来上がりました。亡くなった彼女も期待してくれていると信じています。
EDINETとワタミのIRから取ってきた過去5年間のワタミの経営指標の推移はこんな感じです。
2009/3 | 2010/3 | 2011/3 | 2012/3 | 2013/3 | |
売上高 | 111,291 | 115,420 | 123,877 | 140,197 | 157,765 |
経常利益 | 6,106 | 6,349 | 6,708 | 7,808 | 8,021 |
当期純利益 | 2,561 | 3,257 | 2,828 | 3,418 | 3,540 |
当座資産 | 8,980 | 10,731 | 11,055 | 14,874 | 13,197 |
リース債務 | 5,544 | 12,129 | 23,262 | 36,001 | 47,266 |
有利子負債 | 13,694 | 19,107 | 18,434 | 13,191 | 9,617 |
純資産額 | 22,794 | 25,340 | 27,333 | 29,350 | 32,046 |
総資産額 | 70,229 | 77,795 | 93,534 | 111,425 | 124,680 |
ROE | 11.2% | 12.9% | 10.3% | 11.6% | 11.0% |
ROA | 3.6% | 4.2% | 3.0% | 3.1% | 2.8% |
当座資産月商倍率 | 0.97ヶ月 | 1.12ヶ月 | 1.07ヶ月 | 1.27ヶ月 | 1.00ヶ月 |
あまり良くないなという印象です。ROAが低く、かつ下落傾向にあります。売上は5年間で40%増加していますが、経常利益の増え方はそれほどでなく、限界収益逓減の法則にはまり込んでいるのか、あるいは既存店舗の落ち込みが新規出店や新規事業の利益を食ってしまっているのかブルー・オーシャン的な成長企業というよりも、成熟・衰退市場でシェアを拡大する戦略を取りながらもがくレッド・オーシャン企業という印象です。
踠く者といえばベルセルクの主人公の称号?ですが、踠く企業は勘弁して欲しいものです。ベルセルクとハンターハンターはいつ連載再開するのでしょう。 どちらも作者の才能が枯渇したけど人気が下がらないので逃亡という説を信じています。
閑話休題、ワタミの財務分析ですが、他企業との比較をしようということでモンテローザをベンチマーク対象にしようとしたのですが、モンテローザは非上場で有価証券報告書がないということに今さら気づきました。同じ業態で同じぐらいの規模ということで使いやすいと思ったのですが・・・しょうがないのでコロワイドと大庄を使って比較してみます。 なお、ワタミとコロワイドは平成25年3月決算、大庄は平成24年8月決算を使います。
ワタミ | コロワイド | 大庄 | |
売上高 | 157,765 | 128,388 | 78,014 |
経常利益 | 8,021 | 3,445 | 2,059 |
当期純利益 | 3,540 | 1,608 | 884 |
当座資産 | 13,197 | 20,438 | 13,749 |
リース債務 | 47,266 | 3,574 | 1,610 |
有利子負債 | 9,617 | 73,509 | 12,294 |
純資産額 | 32,046 | 23,424 | 26,397 |
総資産額 | 124,680 | 135,477 | 50,547 |
ROE | 11.0% | 6.9% | 3.3% |
ROA | 2.8% | 1.2% | 1.7% |
当座資産月商倍率 | 1.00ヶ月 | 1.91ヶ月 | 2.11ヶ月 |
先ほど、あまり良くないなと言いましたが、収益性について言えば、ワタミはまだマシです。コロワイドはもっと悪いし、大庄よりもワタミの方が収益性がいい。さらに分析を進めます。営業利益までの費用を原価率、人件費率、店舗・管理費率に経費を分解。
ワタミ | コロワイド | 大庄 | |
売上高 | 157,765 | 128,388 | 78,014 |
売上原価 | 70,884 | 47,813 | 27,697 |
原価率 | 44.9% | 37.2% | 35.5% |
人件費 | 28,737 | 28,450 | 25,443 |
対売上高人件費率 | 18.2% | 22.2% | 32.6% |
人件費を除く販管費 | 48,934 | 47,691 | 22,643 |
対売上高販管費率(除人件費) | 31.0% | 37.1% | 29.0% |
営業利益 | 9,259 | 3,445 | 2,230 |
売上高営業利益率 | 5.9% | 2.7% | 2.9% |
非正規含む人員数 | 21,395 | 11,018 | 7,733 |
1人あたり売上高(千円) | 7,374 | 11,653 | 10,088 |
あっ(察し)
同業他社と比べたワタミの特徴は、大量の人を雇い、売上の割に低賃金で働かせ、その売上も大して上がっていないという悲惨な状況が挙げられます。ちなみに、ワタミは介護事業と宅食事業があり、売上の半分が介護と宅食ですが、セグメント別で見ると外食事業はさらに利益率が低くなります。ちなみに、介護事業も宅食事業も人件費がかなりの割合を占めることが多い事業なので、ワタミ系列の居酒屋の現場は想像以上に大変なことになっているものと思われます。コロワイドだって大庄だって決して労務管理がいい方の企業じゃねーぞ。
詳細を解説していきます。
ワタミの原価率が高いという点は、値段の割にいいものを出している、モノの割に値段が取れていない、外食・宅食事業のセントラルキッチン等のコストが高い、業務委託社員の人件費を原価に計上しているなどの理由が考えられます。人件費率が驚きの低さなので、人件費の原価算入が最も疑われます。なお、業務委託社員がワタミの従業員数に含まれておらず、原価に算入されているとした場合、1人あたり売上高がさらに減ることとなり、なおも末期的な状況になります。1人あたり売上高の低さは異常な数字です。なお、本当は人時売上高を出したいのですが、そこまでのデータがないのでそれは割愛。
ちなみに、外食産業の収支構造としては、原価・人件費・その他経費を1:1:1とするのが基本で、そのバランスを敢えて崩すことで差別化を図ることが一般的です。その意味では大庄は平均的。コロワイドは店舗にお金をかけ、人にはお金をかけないのかなという印象。ワタミの数字は色々とおかしい。
一方、介護事業や宅食事業は外食事業よりも収益性が高く、ワタミの今後が決して暗くないことを示しています。しかし、この分野の特徴は外食なんて比べ物にならないほど人件費がかかること。さらに肉体労働の割合が多く、かつ低賃金であるため従業員の離職率が高いことでも有名です。今後、ワタミには人材育成や人的資源管理が一層要求されるわけですが、こんな有様で大丈夫なのでしょうか・・・?
色々と述べて来ましたが結論としては、ワタミの収益力の高さは介護事業、宅食事業の収益力の高さに依存しており、外食事業においては同業他社と比べ、収益力は並み程度、労働環境は極端に悲惨ということが分析できます。外食事業は売却または抜本的改革が不可避であり、売却も改革もしないとなると、今後企業の足を引っ張るお荷物になっていくことが予想されます。しかし、外食事業はワタミの創業分野なので、そうなる可能性は高いといえるでしょう。
財務面では、リース債務の多さが目を引きます。これは、ほとんどが介護事業に関するものです。
推測になりますが、ワタミの介護事業は現在うまくいっているものの、もともとワタミ自身、成功する見込みが高いと見て始めた事業ではなく、またその不確実性の高さが銀行筋からも嫌われたのではないでしょうか。結果として資産の多くをリース調達せざるを得なかった。そして、その時のままリース調達を続けている、つまり、ワタミ自身が今後の見通しは不透明であり、自社で資産を抱えるのではなく、リース調達で撤退しやすい環境を作っているということです。
介護事業は収入の多くが介護保険によるもので、これは制度がコロコロ変わる代物です。銀行から資金調達を行うことに及び腰になってもおかしくはありません。労働問題で危険企業扱いされて銀行から借りられないからリースというわけではない模様。銀行とはコミットメントライン契約を締結しているようで、残枠が100億円ほどあるようです。平均月商130億の企業にしては心許ない水準ですが、いざという時に効いてくるでしょう。
ワタミの財務面での問題点は、流動性が低いという点です。何か大きな事件が発生し売上が急減するような事態が発生すると、数ヶ月で資金繰りが詰まる可能性があります。その間に何らかの手を打てればどうにかなるのでしょうが、これだけ叩かれている昨今、食中毒や介護施設での虐待、不正受給等の問題が発生すると、全てが逆回転になる可能性があります。投資するには踏み越えなければならないリスクが結構多い企業だと言えるでしょう。
今回は、話題の企業ということでワタミを取り上げてみましたが、残念ながら?ワタミが今すぐ逝ってしまいそうな気配はありませんでした。しかし、上場企業の割に経営面、財務面での脆弱性が高いことも判明。創業者が参議院に行ってしまった今、果たしてこうした問題を解決してレッド・オーシャンから抜け出し、ブラック企業の汚名を返上できるのでしょうか?
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